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以前からわざとらしく呟いていた、東方され竜 混ぜるな危険SSの序章です。

体裁は後で整えるとして、自分のテンションアップのために、
とりあえずブログ記事にて、プレビュー的にアップしてしまいます。

他人の視線は気にしないことにしました。どうせ誰も見てないし。


 *注意事項*

・タイトルとは裏腹に、弾幕ごっこしていません。ガチ戦闘のつもりで書いてます。
・若干暴力的と言えなくもない表現が含まれます。
・され竜成分は、1巻の大まかなストーリーと、アレな会話分くらいで0に近いです。殆ど東方。
・要は、ストーリーをぱく(ry

され竜知らなくてもいいけど、読んでると生暖かい気持ちになれます。

本文は続きからドウゾ



     序

轟っ――。

うなりを上げながら、人間の上半身ほどもある氷塊が耳元を掠める。

それと同時に、目の前の幼い少女は素早く左へと回り込み湖上へその身を踊らせる。しかし、身体は湖面には落下せず、滑るように湖上を移動する。透き通るような白い肌と悪戯好きな子供の表情、蒼く輝く髪は陽光を反射して薄く光る氷の繊維。そして、その姿で最も特徴的なのは透き通る翅――よく見ると、それもまた薄く輝く氷。

少女はその翅を細かく羽ばたかせて空中に浮かんでいた。

氷気が具現化した妖精である氷精としては典型的な姿ではあるが、こいつは比較的大きく、存在感も力も強い。

氷精は、そのまま滑るように湖の奥へと移動しつつ、さらに氷の礫を連射して来る。数が多い上に微妙にねらいが定まっていないのか、弾道がばらついて面倒だ。が身動きがとれなくなる程じゃない。

こちらもマジックナパームの連射で応戦する。炸裂の追加効果が便利ではあるのだが、弾速が遅いのが璧に傷だ。さらに相手の素早さが高く直撃しないため、今のところ目眩ましの煙幕程度にしかならない。氷精の周囲で炸裂したとしても、ご丁寧に冷気の壁で遮蔽してやがる。

的が小さい上に素早く、さらにわざとなのか天然なのか、動きがランダム過ぎて的を絞りきれない。あまり間合いを広げられすぎると余計に面倒だ。

同系統の射撃系で、より広角なスターダストに切り替えるべきかもしれな。

詠唱を思い出す一瞬だけ意識が離れたのを見逃さず、氷精はここぞとばかりに特大の氷を放つ。あ、やばい。回避が間に合わない!

硬直する私の横合いから颶風。次いで真紅の刀身が翻り氷塊をバラバラに切り飛ばす。勢いを失わない破片が身体を掠めるが、直撃はなし。

「油断しない!」

天子の短い警告の言葉に、硬直した身体が不意に元に戻る。

私を仕留めたと思っていた氷精は、目の前で展開された一瞬の妙技に驚愕して完全に足が止まっていた。好機。

反射的にナパームを掃射。氷精が我に返るより早く着弾し、追加の炸裂が身を灼き、氷精の足が完全に止まる。

それを認めた天子は、再度颶風となって疾走。

左手をかざす先に次々と要石が出現し、それを足場にして湖の上を疾駆、氷精との間合いを休息に詰めていく。

弾速が遅いナパームを追い抜かす勢いで、天子は氷精を間合いに捉えた。直前で大きく跳躍し、完全な死角――最上段から非想の剣を振り下ろす。深紅が氷精の脳天を捉えた。

天子は運動慣性に従ってそのまま振り下ろした剣で、自身の足場の要石までたたき割っている。そんな容赦のかけらもない一撃を食らった氷精は、流石に中空に浮遊し続けられるわけもなく、既に湖面に叩きつけられ派手な水音を上げている。少なくとも気を失うくらいはしているだろう。

いくら妖精が半不死とはいえ、もう少し加減をしても良さそうなものだけどな。

連続射撃用の魔法陣を解除して、静かに戦闘態勢から復帰。ほっとして軽く息を吐く。

「依頼された妖怪の退治だったが。相手は妖精で良かったのか? 確かに、人間に悪戯しようとしてはいたけどな」

二つに割れても尚、浮遊力を失わない要石を見上げると、そこには相棒の天子の凶悪な笑み。

「さあね。私は退屈がしのげれば何でも構わないわよ?」

「流石は、猟奇殺人検定ギリギリ失格者。一緒に受けた知的生物検定の結果も失格だったと聞いたぜ?」

「魔理沙、簡単なダイエット方法があるんだけど、試してみない? その飾りにしては不格好な頭を取り外すだけで飛躍的に体重が減るんですって」

いつも通りの下らない会話に、先ほどとは違う意味でのため息が漏れる。いや、二つとも同じ物なのかもしれないな。

とにかく、未だに天子が世界の敵認定がされないのが不思議だった。天子の名前が賞金首にあがるのも、そう遠くないに違いない。





先ほどの氷精――実は、チルノと言う名前であることすら知っている既知の仲なのだが――が湖の流れにのって沖へと向かっているのを眺めつつ、しばし小休止を取ることにしていた。

傍らには、愛用の箒。だが戦闘中、特に天子と組んでいるときは機動力よりも射撃の威力と正確性が要求されるため、使用することは滅多にない。

ついでに、ポケットに入るスペルカードの束に触れてその厚みだけで残枚数を確認する。お手製のカード達には詠唱の手間を省くための発動式と、起動に必要な魔力を封じてある。大抵の呪文は、発動後に追加の魔力が必要だから、あまり乱発も出来ないんだガな。

今日は里の人間から、湖で悪さをしている妖怪がいるとの報告を受けて、様子を見に出向いていた。

湖の畔は人間のテリトリーと取り決めがなされているわけではない。正確には、取り決めを交わす相手がいない。しかし、実際には漁場、というか釣り場として人間の往来はそれなりにある場所だった。

本来、そういった生活圏の取り決めを交わすべき相手、となれば妖怪なのだが、奴らは個体数が多く群――という表現を使ったら奴らは怒るだろうが――を作る習性がない種族が殆どだ。それどころか、一妖怪一種族、なんてこともざらにある。群をなさないなら、一個体ごとに約束を交わすしかないのだが、それはいくらなんでも時間の無駄だ。

暗黙の了解で、道が広く開けているところは人のテリトリーとする、みたいなルールがあったりなかったりするのだが、それが妖怪全体に対してどれだけ広まっているかは、果てしなく謎だ。

信用できないという意味では人間の方も一緒で、それなら木々をすべて切り倒して、妖怪を追い出そうとか大まじめに主張する一派――というかアホの詰め合わせもいたりする。そういう奴は、妖怪以前に自然の仕組みを理解するのが先だと思うがな。そもそも妖怪と一緒に、木々や魚、森の動物なんかを追い出して、そこが人間の場所だと主張することになんの意味があるか分からない。

効力なんてあるかも分からない取り決めでも、力で劣る人間はそれを当てにして行動するしかない。だから、人間と見るや場所も考えず手当たり次第に襲ってくる妖怪がいるならば、私たちの所に退治の依頼が舞い込んでくる。

里なんかに行けば、妖怪が人間の商店に買い物に来るなんて当たり前なことだし、妖怪が商店を開くのは稀ではあっても、その逆もまた然り、だ。それ以外の面においても、人間と妖怪の関係を俯瞰して見て行けばそれなりに友好関係を築いているようにも思えるが、末端の衝突はやはり存在するのが実状だ。

だからこそ成り立つ、因果な商売もある。私の生業――の一部もその一つ、というわけだ。

今回はどんな妖怪か、具体的な報告がなかったため、用心して少し多めにカードを持ってきていたのだが、あまり活用する機会もなかった。カード準備、というか製作にはそれなりに手間も時間も資源もかかるから、余る分には一向に構わないけど。

私の名前は霧雨魔理沙。里の――少なくとも私が知る限りは――有力な商人の娘という生まれだが、そこを飛びだして随分と経つ。今は魔法の森に住んで何でも屋をやっている。出来高払いの優良サービスが売り、の森の魔法使いだ。

と、流れゆくチルノに向かって、心の中で自己紹介かつ宣伝をして時間を潰してみる。チルノに対して、実際に何回か自己紹介してみたが、覚えられたのは私の名前がマリサだと言うことだけだった。

そんな、永久凍土の二毛作くらい不毛な事をしている原因――すなわち相棒たる天子の姿を、傍らに立て掛けた、愛用の箒越しに見る。大切だが暇な休憩時に、ただ黙っているのも退屈ではあるのだが、相棒と喋ると不毛な会話にしかならないのは分かりきっている。

私の相棒だと専らの噂である比那名居天子は天人なのだが、そういった人種に想像される神々しさなど微塵も感じられない。それどころか、顔を見ると血の幻臭すら感じられる戦闘狂である。ついでに性格も実数空間を通り越して虚数空間を通りそうな程ねじくれている。

という事実が世界の危機に直結していると認識しているのは残念ながら私だけのようだ。そんな本性によって命に関わる被害を被っているのも残念ながら私だけだろう。

そんな天子と組んで仕事をしている私は、火薬庫で魔法実験をしているような気分だ。とは言え一人でどうにかするには危険な依頼も多く、天子も実力だけなら疑うところはないので、こうして組んで仕事をしているわけだ。

相棒が、こいつじゃなきゃいけない理由は特に思い当たらないが。

しかし、弾幕ごっこのように一対一の決闘ならともかく、誰かと組んでの集団戦闘は様々な事を計算に入れた上で魔法を発動することを要求されるため、思った以上に厄介で頭が酷く疲れる。

「黒いの、頭痛か何か?」

一瞬顔を顰めたのを見ていたらしい。天子から声を掛けてきた。思わず天子をまじまじと見返してしまうほどには珍しいことなのだ。だからといって嬉しいかというと、それは全く別次元の問題だけどな。

最近は頭痛が密かな悩みになっているのは本当の事だった。

「相棒の人生の行く末に頭を痛めていたんだよ。何時になったら人間に進化できるのかと思ってな」

「いっそ頭痛を起こす頭ごと、取り替えたらどう? 患部の切除までなら喜んで手伝ってあげるわよ」

「天子の方こそ、定期的に誰かを虐めつつ虐められないと眠れない病気の治療に専念したらどうだ? 転生治療法って言うのが流行っているらしいぜ」

「本当にあんたの性格は大絶滅しているわね」

「性根が原子崩壊している天子に言われたくはないな」

一般的な日本語に翻訳すると「こんにちは、ご機嫌いかが?」、「これはご丁寧にありがとうございます。とてもすこやかです」と言った感じだろう。私たちの会話は大抵こんなもんだ。

いつもなら、そこから沈黙が続くのだが、今日は珍しいことに再度天子から声が掛けられる。

「ところで魔理沙。さっきの戦闘だけど、あの足の速いのに何だってナパームなわけ?」

何事かと思えば、またか。

時折、こうして戦闘指南的な御言葉を有り難くも賜るのだ。大体以上に言っている事は的確すぎるのだが、素直に聴いてやるつもりも毛頭ない。

「接近戦にもって行きやすいように、低威力の炸裂による煙幕と足止めを優先しただけだぜ」

「あんな弾速の遅い射撃じゃ避けられる可能性が高かったわ。私の反応が遅れていたら、打ち返しでやられていたのは間違いないわね」

「お前が飛び出しを狙っている気配が感じられたから、それで十分だと判断した」

小うるさく詰め寄る天子を一瞥し、私も言葉を連ねる。

「これでも天人様の近接能力を高く評価したつもりだが?」

言葉を言い終えるとほぼ同時に、首筋に金属の冷ややかな感触。その鋭さに思わず息を呑む。

「あんたに天人の何が分かるのよ」

天子の高速抜刀から、首筋への寸止めは私には視認することも難しい。こいつの近接戦闘能力だけは、本当に折り紙付きなのだが、いかんせん性格が致命的な大打撃を受けて、歪みまくっているのが残念だ。主に私にとって。

天界の総領事の娘という大凡ご大層な家柄となりたくもない天人となった当人の意識の乖離が、こういう面倒な性格を生んだのかもしれない。

迷惑だから、誰か人生のやり直しの機会を与えてやったらどうだろうか。出来れば、今の人生から脱出させて、魂への教育から始めさせると良いと思うのだが。

「言葉より先に手を出すなよ単細胞」

悔しいので、出来るだけ驚きを表に出さないようにしながら、私は愛用の箒で首筋に当たる白刃を押し返す。天子も刃を素直に引く。しかし、講釈の方は、尚も続いていくようだ。

「スペルを使わないにしても、足の速い対象を相手にするならスプレッドスターを広げるって言う選択肢もあったはずだけど?」

「お前が何時突っ込むかもしれない状況で、スプレッドスターなんか使えるか。オプションの配置を完璧に制御しないと、天子の背中を撃てるという、私にとって愉快極まりない状況になるが?」

「そうならないように、自分の能力くらい鍛えておきなさいよ」

はい全くその通りでございます。が、そんな指摘のされ方をして面白いわけもない。ある程度自覚している点をつつかれると不快指数が上昇するばかりなので、話題を変えておこう。

「それにしても、依頼者の話振りからすると、もっと厄介な、よく分からない妖怪が出たって話だったよな」

「そうね。だからこそ、装備も大がかりにした。いくら依頼者が恐慌状態だったとしても、妖精と気づかなかった、なんて考えるのは楽観過ぎるわね」

「恐らく本命はまた別にいるんだろうな。住処を変えていれば一番いいんだけど」

「それはどうかしらね。目撃情報は複数のようだから…」

そこまで口にした天子が、唐突に黙る。一瞬、視線が脇にそれ、またこちらに戻ってくる。

「魔理沙」

「気づいているって」

私が休憩時に念のため張っていた探知用結界が、何者かの接近を検知していた。私より鋭敏な天子は生身の感覚だけでそれを察知したらしい。流石に、死神に追われ続ける生活を送っているだけのことはある。

探知結界の反応から方向を特定。気配を追う。

私も生業の性質上、妖怪を相手にすることが多いのだが、奴らの生体は種族ごとに異なりすぎて把握もおぼつかない。しかし、総じて言えることは、人間を恐れる種族はいない。

なぜなら、奴らにとって人間は捕食の対象に過ぎないからだ。

尚も姿は見えない。この付近は木立が多いから、物音を立てずに近づくのはそう簡単ではないはずだが。

私も天子も既に立ち上がり戦闘態勢を整えている。相手の正体もはっきりしない状態では、用心しすぎるなどと言う状況はあり得ない。最大限に警戒をしていないとあっと言う間に食われて、妖怪の胃袋――もしくはそれに代わる器官――の中で後悔することになる。

物音――不意の水音。

咄嗟に音のした方向から距離を取る。態勢を立て直すとともに、改めて物音の方向を確認する。立ち上がる水飛沫の向こうに映る陰は巨体。それは飛沫を引きずりながら飛び上がった。巨体が陽光を遮り、影を作る。

踏み潰さんとする意志をいち早くかぎ取った天子が、私を抱えて跳躍。巨体の落下点からさらに距離を置く。巨体は湖から地面へ着地していた。

そこには、のっぺりとした皮膚に包まれた上肢。その内に感じられるのはうねる筋肉の束。驚異的な跳躍を可能にした下肢はさらに強靱な筋肉。見上げると、人間を一口で丸飲みに出来そうな口と、無機質で冷淡な瞳。空を覆うような巨体が放つ圧力に、一瞬思考停止する。

そこにあったのは、巨大すぎる蛙――大蝦蟇の威容。

「こいつが報告のあった妖怪か」

「流石に、一般人がいきなり鉢合わせたらパニック起こすわね」

身体が巨大すぎて、ぱっと見ただけでは全容が把握できない。それほど大きな、体高から推測するに湖の主か、それに準ずる個体。このクラスになると、その巨体を生かした打撃はもとより、水属性の魔術も心得ることもある。最悪の相手だ。

相手は既に殺気を漲らせて、魔法陣を展開していた。問答無用。やるしかないらしい。

「はっ!」

私の刹那の躊躇を振り払うかのように、天子が大蝦蟇に向かって突っ込む。一瞬遅れて私もそれに続く。この巨体に対して間合いを広げても逆効果だ。しかし、正面から突っ込むような愚は犯せない。

相手の魔術の射線を分散させるため天子は大きく右に、私は左へと回りこむ。

大蝦蟇はその広い顔の左右に突き出る、それすら巨大な左右の瞳で左右の私たちを別々に追うが、天子との接触が早いと判断したらしい。魔法陣の展開を停止すると、その柱のような腕を振り上げ、水平になぎ払う。

天子は、それを屈んで回避。逃げ遅れた髪の数本が千切り取られて宙を舞う。

自身の一撃が回避された事に何かを思ったのか、無機質な瞳を細めた大蝦蟇はそのまま低い姿勢で突っ込む天人を見据え、前肢で叩き潰さんと腕を振り下ろす。

その強烈な一撃の方が自分より早いことを察知した天子は、地面を踏み割らん勢いで急停止。

大地を操る力を以て、咄嗟の判断で地面を隆起させると、その側面に足をかけて後方に飛翔。大蝦蟇の一撃をきわどく回避すると一回転して着地。すかさず振り下ろされた右腕に飛び掛り、非想の剣を一閃。筋肉の束に刃が突き立つ。

天子がその細い姿に見合わない剛力を刃に乗せ、そのまま振り抜く。骨と筋繊維を切り裂き、赤い刃が反対側へと抜ける。

赤黒い血液が弾け、地面に赤い湖と川が作り上げられた。むせるような血臭があたりに立ちこめる。

苦鳴を洩らす大蝦蟇は、その痛みと怒りのままに残った左腕を振り回す。天子は深追いせず、すかさず退避。天子が密着していたために、今の今まで狙えなかった射線が開放された。

「ここだっ」

無理な体勢からの追撃を仕掛けた大蝦蟇へ向けて、イリュージョンレーザーを放射。開いたとはいえ精密さが要求される射線を、強烈な熱線が駆け抜け、大蝦蟇に喰らいつかんと迫る。

しかし、レーザーはその直前に現れた、水壁に命中。その表面を蒸発させるが、渦を巻く水の柱は強固にレーザーを遮り、大蝦蟇まで届かない。

「水壁による結界か! 思ったより強固だな」

「その手前の霧での減衰も無視できないわね」

天子の指摘の通り、周囲は薄く霧に覆われていた。この霧での減衰はそう大きくはなさそうだが、相手との距離が開けば開くほど効果が大きくなる厄介な結界だ。

迂闊だった。このクラスの妖怪になれば、自属性の魔術くらいは使えることは意識していた。しかし、それに加えてここは水辺で、水属性の魔術は水を制御する事だけに集中すればいいので、効果が特に強くなるという地の利については失念していた。そして、魔法を効果的に使用できる頭脳まで持ってやがる。

間の悪い事に、大蝦蟇も私たちがただの人間ではなく、自身を脅かしかねない存在である事を認識したらしい。

切断された手首に魔法陣の燐光。切り落とされた右手の代わりとばかりに現れたのは氷の鉤爪。傷口を固めて止血と、冷却による腐食の遅延、感覚を麻痺させことで痛み止めの効果もあるだろう。抜け目がなさ過ぎる。

さらに別の魔方陣が大蝦蟇の足元に展開し、複雑な印を結んでいく。

まずいと思った瞬間に、側面から衝撃。

天子が私に対して体当たりをかけ、術の軌道から強引にどかす。その脇を駆け抜ける、沸き立つ奔流と熱を纏った空気。

激流となって襲ってきたのは沸騰した温水による鉄砲水。熱湯の激流が炸裂しながら進む進行方向に存在した樹木が根こそぎ持って行かれていた。その非常識なまでの威力を見ると、たかが水とは到底言えない強烈な攻撃だ。

「っつうっ」

余裕を持った回避が出来ず、跳ねる熱湯の飛沫に触れる。直撃よりはいい、とはいえ皮膚を焼く激痛が消えるわけでもなく、思わず苦鳴が漏れる。

「まだ来る!」

天子が言葉とともに、私を抱えてさらに飛び退く。いつまでもお荷物をしているわけにもいかない。天子が右足で地面を蹴ると同時に、私が箒に浮力を付加して加速。天子はさらに要石を足下に配置。逆足で蹴ってさらに上空へ向かって加速。寸での所で熱湯の奔流を回避する。

緊急加速で箒にぶら下がったまま加速していたが、流石にこの姿勢は隙が大きすぎる。軽く反動をつけて前転の要領で箒にまたがる。天子はといえば片手懸垂の要領で箒の上まで飛び上って来やがった。

上空から大蝦蟇の破壊の惨状を確認する。

大蝦蟇の周囲は朦々と立ちこめる蒸気で覆われている。木々はなぎ倒され、地面は泥地と化していた。先ほどの黒血も完全に洗い流されている。その中心に佇む破壊の主は、無機質な瞳でこちらを未だ狙っている。

再度の魔法陣が燐光を灯す。先ほどまでと術式は異なり、今度は大蝦蟇の眼前に展開。無数の氷槍が生成され、こちらに向けて射出。

「ちっ」

大きく回り込んで回避。弾速も軌道の精密さも密度もないが、連射が利くようで止むことなくこちらに向けて射出を繰り返してきて、回避に専念させられる。この状況が続けば押し切られるのは時間の問題だ。

「そもそも的が一つになっている時点で不利だぜ。お前だけ降りろ。ついでに食われて相手の中から攻撃してこい」

「幻想郷的解決方法ね」

もちろんそんな解決方法が実践できるはずもないのだが、アホなことでも言っていないと気持ちが萎えるから無理矢理にでも言っているだけだ。

流石に上空から飛び降りるのは的になりに行くようなものなので、回避しつつ出来るだけ低空飛行に移行。温泉と言うにはまだ熱すぎる灼熱の沼を掠める軌道に移行。相手の氷槍が地面ぎりぎりを飛行する私に向かうため、流れ弾が次々と地面に着弾。灼熱地獄の様相を呈している地面を急速に冷やし、ついでに氷槍が蒸発する際の水蒸気が煙幕代わりにもなる。

一応言っておくと、きっちり狙ってやっているんだぜ?

地面すれすれを高速飛行する箒から天子が飛翔。地面を削りながら慣性を殺す間、天子に攻撃が向かわないように、牽制の星屑をばらまく。

だが、大蝦蟇は冷静に天子にねらいを定めていた。天子が態勢を立て直し切る前に氷柱が天子に向けて殺到する。天子はすかさず地面を隆起、楯とすべく構築した大地の壁だったが、それには間に合わず、しかし下から氷槍を弾き飛ばす。際どいタイミングだ。

咄嗟の判断で、天子は弾かれて空中に舞った氷槍を、大蝦蟇めがけて蹴り飛ばした。

予想外の物理攻撃に虚を突かれた大蝦蟇か目を見開く。蹴り飛ばした程度では攻撃力自体は大きくはないからあっさり打ち落とす。だが、天子の機転に驚いた大蝦蟇の意識は完全に私から逸れている。

この機を逃すわけには行かない。懐から取り出した八卦炉を大蝦蟇に向かって構え、スペルカードを発動。予め符に込められた術式が急速展開。

魔力収束の環状抑制力場、照準、反動を相殺するための魔力放出口などが逐次生成されていく。八卦炉の内部に装填されたヒカリダケを触媒にして発生した光の魔力が環状抑制力場によって収束されていく。

「これでどうだ」

魔力が光りとなって解き放たれる。

放つのはスペルカード・魔砲 マスタースパーク。進路上の霧を蒸発させながら、まっすぐに大蝦蟇を捉える。大蝦蟇は超絶反応速度で水による結界を展開するが、高威力のビームが水の壁をぶち破る。水壁に減衰させられながらも、ついに結界を突破。大蝦蟇の頭部めがけて殺到する。

流石に仕留めたと思った刹那、背中を駆け上がる戦慄。

大蝦蟇は、氷の鉤爪を纏った右手を盾にしてマスタースパークの殺到を受け止めたのだ。鉤爪は蒸発し、むき出しになった切断面から肘くらいまでが炭化していくが、直撃すればそれどころではなかったはずだ。激痛のあまり瞋恚の炎が瞳に灯っている。

とっさの判断だった筈だが、考えられる最善手。身を守る術に優れた巨体の妖怪など、厄介にも程がある。

それを認めた天子はすかさず追撃に移る。狙うは腕が完全に使い物にならなくなっている右手側。最短経路を一直線に進む。

大蝦蟇は、負傷した右腕でもなく、左腕でもなく、大きく開いた口から飛び出す肉の鞭――舌を天子に向かって繰り出した。筋力から言って、腕ほどの威力はないが、それ以上に予想外の速度で天子に迫る。

天子は地面を踏み割りながら緊急停止。流石に回避行動には移れず、強烈な舌の一撃を非想の剣で受け止めた。しかし圧倒的な質量にそのまま弾き飛ばされる天子。中空に打ち上げられ、無防備な姿勢を晒す。

しかし、現実はそうならなかった。

天子はその勢いのまま身を捻ると同時に要石を発生させる。絶妙な配置で足先に出現した要石を蹴り、先ほどに倍する速度で大蝦蟇に迫る。

舌による追撃を狙っていたが完全にタイミングを外された大蝦蟇は、それでも咄嗟に左手を振るう。しかし天子は、退避どころかさらに要石を足下に出現させて再び加速、跳躍。大蝦蟇の懐に入り込む。

天子の側頭を大蝦蟇の左腕が掠め、帽子が吹き飛ばされる。剣士は意に介さず喉を狙い、雷光の如き剣閃が水平に迸る。大蝦蟇は回避のために咄嗟に身体を起こした。天子の狙いはそれたが左腕から胸までを一文字に切り裂き、鮮血を周囲にまき散らす。

天子が次の一撃を見舞う前に、水掻きのついた左手が頭上に振り下ろされる。咄嗟に後退する天子を追撃する肉の鞭を回避と同時に蹴り、さらに後退。私の隣に降り立つ。

「ふん、うまく行かないものね」

帽子を飛ばされた際に、こめかみのあたりを掠めたのだろう。目の脇から頬へと伝う鮮血を拭うと、天子は楽しそうに目を細める。

「そこの刃物狂い。少しは持病の虐められたい願望が満たされたか?」

「あら、いたの? 解説者は画面の外で大人しくしていてもいいのよ?」

私も天子を見ていないし、天子もこちらを見もしない。空疎な会話だけが二人の間の空間を埋める。朝の挨拶並に、頭を使わない条件反射の会話だったが、軽口が叩けるうちはまだ心は死んでいない。

「しかし、厄介すぎる相手だぜ。あれだけ動けて尚且つ術も強力だもんな。一度攻略法を調べに離脱したいな」

「生憎と、あちらも情報掲示板への書き込みを待ってくれるほど暇ではないわね」

「奴の結界は、術の組成を破壊するものではない。あくまでも物理的な防御結界だ。であれば、何とかなるかもしれないな」

頭の中で戦術を組みながら、呟く。

大蝦蟇の全面には、膨大な魔法陣。その記述からして、先ほどの灼熱の鉄砲水。しかし、規模だけは先ほどと桁違いだった。

「ほら、行くわよ」

言うが早い天子が大蝦蟇に向かって三度の突撃。沼の様相を呈した地面を、泥を散らしながら疾走。あっと言う間に間合いを詰めていく。しかし、大蝦蟇の組成式が完成する方が早い。魔法陣が燐光をともし発動する瞬間。

風鳴り。

天子が、文字通り宝としている非想の剣を投擲。凄まじい勢いで右目に突き立った。

絶叫が、湖に木霊する。集中が途切れ魔法陣が揺らぎ一部が消滅。しかし完全に消滅しないあたり、どれだけ強靱な精神をしているのか想像もつかない。

しかし、天子の時間稼ぎの内に、私の術式は完成している。

「食らえっ」

構成した術式に従い、魔法陣が展開。地を這う光点が大蝦蟇に迫る。

大蝦蟇は、攻撃用の術式の一部を防御用に再構築し、あり得ない速度で水の壁を多重展開しやがった。四重まで展開を確認できたが、この防壁は、まさに難攻不落。

だが、それでは私の攻撃は防げない。

光点――物理力に変換される前の、伝導式はあっさりと水壁をすり抜ける。呪文同士の干渉で若干術式が乱れるが、ほぼ影響なく大蝦蟇の足下に到達。伝導式の記述に従って魔法陣が展開される。水壁の向こうの大蝦蟇に驚愕の気配が広がるが、水壁を厚く張ったが故に簡単にその場を動けない。つまり、手遅れだ。

大蝦蟇の足下で、光点が膨大な魔法陣を展開。魔法陣自体が発動の燐光を灯し、物理力を伴った光が炸裂。天に向かう無数の光の柱が、次々とそびえ立つ。

光符「アースライトレイ」は、私の扱う中では数少ない遠隔発動式の魔法だ。誘導指示式、魔法陣展開式、対干渉の術式修復式、圧縮魔力の添加など、詠唱に織り込まないといけない要素が多すぎて、あまり好きではないのだが、必要な場面はあるものだ。

爆光は、周囲の水壁も一緒に蒸発さたため、水蒸気が大蝦蟇を包み込み視界が遮られる。

ごぐるあえええぇぇ――。

凄絶な悲鳴とともに、霧のベールの向こうから巨体が突進。右手に次いで左手もその先端を消失し、全身火傷と水膨れの姿だが、まだ生きてやがった。

迷わず私めがけて突進を仕掛けてくるが、それは判断違いだ。

最悪の不良天人にして近接戦闘の鬼が、猛スピードで突進する大蝦蟇の上に飛び乗り、目玉に突き立った非想の剣に手をかけた。そのまま飛び降りる勢いと腕力で、非想の剣を縦に振り抜く。

大蝦蟇が激痛に思わず速度を落とした刹那の間に、天子は大蝦蟇を蹴って大蝦蟇の傍らに着地。血とガラス体に濡れた非想の剣を地面に突き立てる。

大地が咆哮を上げた。

天子が剣を突き刺した大地を中心にして、爆発的に地面が隆起。ほぼ平坦な地面が一瞬にして見上げるほどの山を築き上げた。瞬間的な衝撃で人を上回るような大きさの岩石が打ち上げられ、冗談のように四方に飛び散る。

全く無警戒な足下から突き上げられ、大蝦蟇が冗談のように上空に舞い上げられた。隆起した地面は下腹部を直撃しているため、内臓に致命的な打撃を被った大蝦蟇は赤黒い血を吐き出し雨となって降り注ぐ。

私は、今の今まで詠唱を続けていた、魔砲を展開。

やらなければ、やられるのはこちらなのだ。容赦などと言う事を考えているほどのゆとりはない。

「恨むなよっ」

導線が大蝦蟇にまっすぐ伸びて、射線をロック。魔力が莫大な力となって放たれる。

マスタースパークは、今度こそ、大蝦蟇を光の中に飲み込み通り過ぎる。そのまま一直線に向かった光は視界の彼方へと消え去る。続く微かな着弾音。空に放射を逃がすつもりだったのだが、どうやら放射のタイミングを誤ったみたいだが、まぁ被害はないだろう。

爆光が消え去った中空で、小さな破裂音。落下物が見えた。天子がそれを受け止める。掌に乗っているのは、小柄な蛙。

「こいつが本来の姿か」

先ほどの大蝦蟇である事を示すかのように、上肢が両方とも千切れたいように消失している。

少しの間、息をしていたがそれも途絶えた。

妖怪と一言に言っても、永きを生きたもの、何かしらの拍子に魔力を持つもの、創造されたもの、無生物に命が宿ることすらある。ある程度の知識は頭に入ってはいるが、それでも尚、幻想郷の妖怪の生態は予測がつかない。

この蛙が、如何にして強力な力を得たのか、しばし思いを馳せても罰は当たらないだろう。などと殊勝な考えが頭を掠めると同時に、緊張が抜ける。立っている気力が枯渇し、その場にへたり込む。

「ぎりぎり、だぜ」

荒い息は当分止まりそうになかった。そのまま傍らを見ると、私よりも動いてダメージも負っているはずの天子が静かに片膝を付く姿。とある疑念が頭を掠める。

「お前、私が先に座り込むのを待ってなかったか?」

「あんたより先に膝をつくなんて出来るわけがないでしょ?」

天子は、本当に嫌なやつだ。







大蝦蟇の核となっっていたと思しき蛙と、報告書の提出を終えた私たちは役所を後にする。依頼と言っても、個人から来るものと、団体から来るものとある。今回は役所からだったというわけだ。

「役所の方が最低限の賃金を確保できるからいいが、手続きが煩雑すぎるな」

提出を終えた、というのは半分間違いで、書式の形式が違うだの何だのと、散々文句を言われた挙げ句、その場で修正不可能だったため、後日再提出する羽目になったのだった。

「かといって、あまりいい加減に書けばそれを理由に支払いを拒否されかねない。文句を言われない程度に書くしかないわね」

「そういう台詞は一度でもこの手の書類を書いてから言え。いつも私に面倒を押しつけているのは、どこの誰だよ?」

「仕方ないわね。人には与えられた役割という物があるのだから」

切実な私の言葉は、天子の嘲笑の前に一蹴された。本当に天子は嫌な奴だ。

「そんなことより、私は主と呼べる妖怪が倒せて満足だわ。次はもっと強い敵でも倒せるわね」

「アホか、今回どれだけ死にそうな思いをしたと思っているんだ?」

驚いて思わず天子の方を振り向くが、天子は獰悪な笑みを浮かべていた。

「私と、あなたが組んで、負けると思う?」

「それは…多分滅多には」

思わず口ごもる私に天子は剣を掲げてみせる。

「じゃあね。」

そういって町の雑踏に消えていく。

今のは、天子なりの励ましだろうか。いや、そうではなく単純に私という便利な火力を失いたくないだけなのだろう。









風流な書院造に、明媚な風景を象る襖絵、床の間には目を見張るほどの鮮やかな陶器に、山水画。そのどれもが落ち着きと威厳をたたえそこにある。

そんな雅な間において、老人たちの怒声に近い声だけが、これでもかと場違いな印象を与えている。その事に当人たちは気づいてはいないのだろう。

「これ以上妖怪を里に入れていいわけがなかろう!」

「実際問題として、妖怪も人間並みに商業貢献しているのです。理由もなく遮断することは出来ません」

「だからと言って、相手の力が危険なものである事を無視するわけにもいくまい」

「それだからこそ、無駄な争いの火種を生むことは得策ではないと言っているのです」

「我等には里の人間を守らねばならないという義務があるのだ」

「奴らがいつまでも大人しくしていると誰が保障できると言うのだ?」

その茶の間の端、卓に向かい筆を走らせる少女はその光景にため息をつく。

「大人しくお茶でも飲んでくれていればいいと思うんですけど」

「真面目にしていないと、後が怖いぞ?」

その傍らには、妙齢の女性が鎮座して、筆の少女に声を掛ける。ついでとばかりに、小声で言葉を付け足す。

「例え、空疎な議論であってもな」

「分かっていますよ。会話は全て聞いているので、あとからいくらでも議事録は作成できます。」

少女はそういいながら、硯の傍らに筆を置く。そこに集まる顔ぶれを見れば、里長に有力な商人、自警団の団長や農家寄合のまとめ役など、錚々たる顔ぶれであることは覗える。

それぞれの立場からそれぞれの意見が出されて、議論が紛糾するのはいつものことではあった。

「議論が無駄だとは言いませんが。こう毎回付き合わされるのは辛いものがありますね」

そう呟いた少女――稗田阿求は、傍らに座る女性――上白沢慧音を振り返る。

「あいつ等の言っている事の一端は正しいさ」

「私も色々と思うところはあります」

「…他の集落や山の妖怪との関係か。確かに気になるところではあるな」慧音はしばし思いに耽ると阿求を見返す「色々と動きを見ているようだが、どう持っていく?」

慧音は視線で会議の場を指す。

「中には関係の構築を快く思わない人間もいるからな」

会議の場はなおも紛糾し続けている。里を守る結界のお陰で妖獣等の比較的知能が低く、かつ凶暴な生物からの被害は最小限に食い止められているが、それが里の安泰とは必ずしも言い切れない不安感が、やはり根底にあるのだろう。

「用心しておく事に越したことはない」

「わかっています。私は案外人気者みたいですから」

おどけて見せる阿求。そのとき、阿求の元に一人の影がそっと近づいてきた。

「阿求様にご連絡したい事がございます」

「おや、何でしょう?」

「賢者様からです」

そう言って差し出される手紙を阿求は受け取り、中を開いていく。しかし封筒の中身は空のようだ。阿求が慧音と顔を合わせ、不思議そうに首を傾げるところに、声が掛けられる。

「無用心ね阿求ちゃん」

声のした方――自分の手元を見ると、封筒の口のところから人の顔が生えていた。大きさは封筒大なので、ぱっと見ると人形の首と思われるが、それが口を開いて喋っているところを見れば、とりあえず人形ではないと言う事が分かる。

「私だったら、今の一瞬で何回阿求ちゃんを殺せているかしらね」

「そんな可愛らしい姿で言われても、あまり迫力はありませんね。それにしても紫様は相変わらずお暇そうで」

「ひどいわね。私はいつでも忙しいわよ」

色々なものが交じり合って、結果的に何を考えているか読めない。そんな不気味な笑みを浮かべた首から上が、阿求を見つめ返す。

「そんなことより、面白いことが起こったわ。耳を貸して」

阿求は、言われたとおりに封筒を自分の耳のほうに持っていく。紫が一言、二言告げると、阿求の瞳が輝きを増す。慧音の位置からは聞き取ることが出来ない。

「本当ですか? このタイミングにそんなことが起こるなんて」

阿求は考え込むように黙り込んだ。

「取引材料としては、悪くないですね」

阿求はしばらく議論する人の輪を眺めていたが、何かの結論が出たらしく一つ頷くと、先ほど手紙を持ってきた影に伝える。

「件の計画に若干の修正を加えましょう。やはり、里へお越しいただくように先方に連絡をお願いします」

そういった阿求の瞳は目の前の会議のさらに向こうを見据えていた。

2009.12.29 


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